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HOME >> Topics 一覧 >> July, 2021 >> 01 (Thu)
◇<インタビュー>伊藤弘之・日本鉄リサイクル工業会会長
日本鉄リサイクル工業会の前身である日本鉄屑工業会が設立されたのは1975年7月1日。これに由来し、きょう7月1日は「鉄スクラップの日」として知られる。新型コロナウイルス感染症の影響からか、鉄スクラップ市中発生量の回復は遅れているとの指摘が根強い半面、国内炉前価格は各地で5万円に達し、およそ13年ぶりの高値水準にある。日本鉄リサイクル工業会の伊藤弘之会長(大成金属社長)=写真=に鉄スクラップ業界の動向や同工業会の取り組みについて話しを聞いた。

――2020年度の鉄スクラップ業界を振り返るとどうでしたか

「昨年度を振り返ると、やはり新型コロナウイルスの影響が大きかった。リーマン・ショック以降、順調に回復してきた経済は、去年の3月頃から感染が一気に拡大したために大きな影響を受けることとなった。鉄スクラップ業界では昨年4月まで新型コロナウイルスの影響は比較的軽微にとどまっていたが、ゴールデン・ウィークを境に8月のお盆明け頃までは大きな影響を受けた。特に我々の業界と深い関係がある自動車業界の減産が大きく響いたが、自動車業界が比較的短期間で減産を脱したのは幸いだった。我々の業界は『谷は深かったが期間は短かった』と言え、V字回復を成し遂げることができた。5月から8月の落ち込みを9月から12月にかけて取り戻すことができたのは、自動車業界の回復が大きく寄与したと言えるだろう。年明けも昨年後半の勢いをそのまま持ち越したような形となっており、新型コロナウイルスの感染再拡大はあったものの鉄鋼業界は意外にしぶとさを見せ、今につながっている」

――鉄スクラップ価格が2008年以来の歴史的高値を付けています。高騰の背景や今後の予測はどうですか

「鉄スクラップ価格は現在、2008年以来の歴史的な高値にあるが、これはとにもかくにも中国の影響が大きい。中国の桁違いの鉄鋼需要が世界的な鉄不足、鉄源不足を生んでいる。中国の国内鉄鋼価格は政府の指導で一時は急落したが、ここへきて反発している。それならば鉄スクラップ価格は今後、また暴騰するのかと言うとそれは疑問であり、当面は高値を維持しながら高値圏での推移が続くだろう。中国の底堅い需要が続く限り、我々の業界でも世界的な鉄源不足が続くのではないか」

「さらに脱炭素社会へ向けて国内でも高炉メーカーが鉄スクラップを買い始めている。転炉の鉄スクラップ消費量のさらなる増加が見込まれるほか、今年から電気炉の生産も増えていくのではないかと見ている。カーボンニュートラルの達成のため鉄スクラップの需要はこれからも伸びていくものと予測され、高炉メーカーや中国の動向を踏まえると、鉄スクラップ価格は、現在の水準からどんどん上がることはないかもしれないが、今後も底堅く推移していくだろう」

――2021年度の工業会の活動方針を教えて下さい。会長として特に力を入れたいテーマはありますか

「新型コロナウイルスの影響で対面での活動は難しい状況にあり、運営委員会を含めた大部分の委員会は現在、WEBを通じて行っている。当工業会の活動は大幅に制限されているが、昨年来申し上げてきた通り、最も力を入れたいことは輸出を含む『品質の安定』だ。ただ、北海道から九州・沖縄まで全国で一律的に同じ製品を作れと言っても、各地域の発生状況や個社の検収によっても違ってくるものなので、それは難しいだろう。しかし、そうした中でも品質の維持、すなわち不純物の除去を推進していきたい。決して強制的なものではないが、例えば”北海道ではこういうことをやっていますよ”、”中部地区ではこうですよ”ということをお互いに情報交換をし、それを工業会として情報発信していきたい」

「脱炭素社会の実現へ向けた当工業会の取り組み方についても、環境委員会を中心に前広に議論を進めていく予定だ。いろいろなチャンネルを利用して会員企業が自主的に取り組める活動をしていきたいが、難しい問題なので、専門家を招聘した講習会や講演会、脱炭素社会へ向けて鉄スクラップ業界はどうすればよいのか考える勉強会を、環境委員会を通じて積極的に開いていきたい」

「昨年来、女性委員会を作りたいとも話してきたが、女性委員会を作ると、逆に女性差別につながるのではとの指摘も受けた。しかし、本来の趣旨はジェンダー問題をはじめ日本社会で起きている様々な差別問題について当工業会でも考え、差別のない社会を作り上げることに貢献したいということだ。具体的に何をするかについては委員会を通じてこれから議論していくが、ジェンダーに限らない幅広い差別問題に対して当工業会では何ができ、どんな活動ができるのか考えていきたい」

「以上申し上げた(1)不純物の除去による品質の安定、(2)脱炭素社会の実現へ向けた取り組み、(3)ジェンダー問題に限定しない幅広い差別問題をなくすための活動――の3つを、2021年度の活動方針の柱としたい。またこれまで取り組んできた『会計の見える化』に関しては、当工業会の会計内容を皆様が見てわかりやすくするため、今年度中に全国的な統一会計システムの導入を済ませる計画だ。先月開催した通常総会では日本鉄源協会への出資金の取り扱いに関する懸案も解決しており、今後も『会計の見える化』を図っていきたい」

――今年3月には北海道・石狩湾新港の大型港湾整備プロジェクトが正式採択されました。工業会として今後期待することは何ですか

「石狩湾新港の港湾整備は足掛け7年かけてようやく実現し、今年の秋から冬頃に工事が始まる見通しだ。当工業会としては石狩湾新港の一港だけで終わらせるのではなく、これをきっかけに日本の複数の港で大型貨物船(ディープ・シー)を船積みできるドラフト12メートル、岸壁250メートル以上を有する大型港湾の整備を国土交通省にお願いしていく。日本の最大の輸出先であった韓国は、2030年あるいは2035年頃には輸出で競合する日本のライバル国になると目されている。ベトナム、マレーシア、インドネシア、バングラデシュ、インド、パキスタンと日本の鉄スクラップ輸出先が今後ますます遠方になり、従来の5,000トン級の船で輸出できなくなれば、万トン級を船積みできる港が必要となるが、大型港が北海道に整備されるだけでは不十分なので、工業会として全国展開を働きかけていきたい。ただ、北海道の場合もそうだが、ひとつの港で2〜3万トンを船積みするのは難しい。そこで、例えば日本海側のいくつかの港で船積みしながら北上し、最後に石狩湾新港をファイナル・ポートにして2万トン以上に仕上げるという構想が進んでいる。そうした複数の港で船積みする『ファイナル・ポート構想』を実現できる大型港の整備を今後、全国展開していきたいと思っている。国交省もすでに石狩湾新港をきっかけに、他にどの港でそれを実現できるのか模索しているとも聞くので、当工業会としても全面的に協力していくつもりだ」

「さらに昨年度から始まっているリサイクルポート構想にもからめて、ペットボトルのような廃プラや紙など他のリサイクル資源とバックヤードを共有し、岸壁も共有するような構想も国交省に働きかけていきたい。大型船が接岸できる港が北海道以外にも数ヵ所できれば、日本からの輸出はバングラデシュやパキスタン、最終的にはトルコへのような遠方にまで積極的に持っていくことが可能になる。脱炭素社会への移行を考えると、これから各国で電炉の新設が続くだろうが、そうなれば鉄スクラップの需要は増え、鉄スクラップ輸出国である日本は一段と重要なポジションに置かれるはずだ。そのためにも大型船が接岸できる岸壁の整備は不可欠であるが、整備には5年、10年という単位で時間がかかるので早めに手を打っていきたい」

――脱炭素社会の実現に鉄リサイクル業界ではどう取組みますか

「脱炭素社会の問題は、当工業会では当初、環境委員会から提起され、カーボンゼロ達成を目指して活動したいという話しがあった。鉄スクラップ業界ではすでにカーボンゼロ社会へ向けて個社の動きが出ていると思うが、当工業会全体で何かを実行するというのは難しいかもしれない。一方、我々の業界がカーボンゼロに貢献している部分も大きいのではないかと思っている。鉄鋼製品を高炉で生産するよりも電炉で生産した方が二酸化炭素の排出量が少ないのはご承知の通りで、我々が電炉メーカーに対して供給責任を果たすことは、脱炭素社会の実現に向けて我々の存在がよりクローズアップされることにつながるのではないか」

「我々自身も二酸化炭素排出量をいかにして減らしていくか考えねばならないが、専門家ではない我々がいくら話し合っても前にはなかなか進まないので、先ほど述べたように講師を招いたり講演会を開いたりして、我々ができることは何なのかを探り、それを当工業会から我々の業界へ向けて発信していくつもりだ。脱炭素社会の実現へ向けて、他のいろいろな業界でも組織や委員会がすでに出来ているので、鉄スクラップ業界だけでなく、他の業界との連携も図りながら、今後1年かけて鉄スクラップ業界は脱炭素社会へ向けて何ができるのかを積極的に考えていきたい」
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last modified : Mon 19 Jul, 2021 [16:21]
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